プロフィール
- 兵庫県宝塚市・西宮市・芦屋市・神戸市 県道16号 明石神戸宝塚線
- 標高:880 m
- 登坂距離:11.3 km
- 標高差:833 m
- 平均勾配:7.4%
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またしても赤信号。掴みかけたペダリングのリズムが唐突に断ち切られる。ヒルクライム、ことさらタイムアタック中に、これほど心を乱す存在はない。
六甲山。
神戸市街地のすぐ背後に横たわる東西に長い山塊で、大阪湾沿いのどこからでもその姿を見ることができる。断層運動によって南側が大きく隆起した傾動山地であり、海に面した神戸の都市が山へとグラデーションを持って溶け込むように、六甲山はせり立っている。
厳しい地形でありながら、山麓から山頂までを縦横に走る道路の多さが示すように、この山は古くから人の生活と深く結びついてきた。人間の都合によって傷つき、そして再び甦った山でもある。
六甲山はかつて全山「はげ山」だった。
江戸期、神戸の発展とともに燃料・資材として伐採が進み、明治初期には地表がむき出しになるほど荒廃した六甲山。遠景に写る六甲山は、現在の緑豊かな姿からは想像もつかない荒れ地だったという。
山肌が露出した結果、神戸市街地は度重なる土砂災害に襲われた。悲劇を繰り返してはならない。兵庫県は1895年から砂防事業、1902年からは本格的な緑化事業を開始した。多種多様の樹木の植栽と、継続的に続いた手入れは、昭和初期まで続いたという。長い時間を経て六甲山は再び「緑の山」へと姿を取り戻した。
六甲山は、「人が壊し、人が治した山」である。

六甲山に至るヒルクライムルートは数多いが、関西のクライマーたちがこぞって挑む「王道」は、宝塚市・逆瀬川(さかせがわ)駅を起点とする県道16号だろう。タイム計測のスタート地点が、駅前の線路にかかる踏切であることが、いかにこの山が市街地に近いかを物語っている。

踏切を越えると、序盤3kmほどは左手に流れる逆瀬川沿いの緩斜面が続く。右手にマンション群が立ち並ぶ中を、真っ直ぐに進む。幾つか信号があり、これをスムーズに通過できるかどうかは運次第である。

逆瀬川を離れると、道の両側にゴルフ場が広がる区間に入る。緩い下りを挟み、フェンスに覆われたトンネル状の道を走るため、実際の速度以上のスピードを感じる。後半の急勾配区間に向けて、六甲山の懐深くに、吸い込まれていくような感覚を覚える。

そして、「甲寿橋」信号を過ぎると、いよいよ六甲山の厳しさが牙をむく。以降、山頂1km手前まで急勾配が緩むことはほとんどない。6km地点、「盤滝トンネル東」の交差点が最後の信号。ここを越えれば、交通量も減り、景色は一気に山岳道路らしい表情へと変わる。
九十九折といっても大きく曲がらず、直線的に伸びる急坂が多い。路面には滑り止めの横縞ペイントが続き、それが傾斜の厳しさを視覚的にも突きつける。ハイスピードで信号のある前半があってこそ、何にも邪魔されることなく、激坂と、そして自分と向き合う後半の素晴らしさが、よりはっきりと際立つ。

途中、芦有(ろゆう)ドライブウェイ・宝殿ICを過ぎる。かなり標高を上げてきたにも関わらず、山中に突然現れる自動車道路のICは、六甲山がどれほど人の手で形づくられてきた山であるかを象徴している。
ふと脚にかかる負荷が軽くなる。勾配が緩み、短いトンネルを抜けると、フィニッシュとなる一軒茶屋が見えてくる。

一軒茶屋は、江戸時代から続く「魚屋道(ととやみち)」の茶屋である。瀬戸内の鮮魚を阪神側から有馬温泉へ運ぶための古道で、現在の店主は七代目。六甲山を越える旅人を支えてきた歴史は、現代のサイクリストにもそのまま引き継がれ、週末には多くのヒルクライマーが一息ついている。
私が初めて逆瀬川から六甲山に登ったのは2018年4月。六甲山をホームコースとしている、大先輩のクライマー・矢部周作さんと一緒だった。逆瀬川駅に集合するや否や、スタート直後から強くペダルを踏み込む矢部さん。事前情報がほとんどなかった私は、ただひたすらについていくしかなかった。
しかし急勾配に入ると、矢部さんは「あとはよろしく」と離脱。激坂の中、私は完全に一人になった。見知らぬ海に投げ出されたような孤独感の中、溺れるように苦しみながら、なんとか一軒茶屋にたどり着いた。
二度目の挑戦となったのは2025年11月。全体的な記憶は薄れていたが、強烈な特徴だけは、はっきりと脳裏に刻まれていた。
「前半は信号の多い直登、後半は緩むことのない激坂」
そして、それはまったくその通りだった。
前半の緩斜面では二度の赤信号。完全停止からの再加速に脚が削られる。後半はひたすら急勾配と向き合う。やっと勾配が緩み、トンネルが現れるのが憎い演出である。スピードに乗らない激坂が延々と続いても、最後は軽やかに脚を回して、フィニッシュを歓迎するゲートのようなトンネルをくぐって、一軒茶屋にたどり着いた。
六甲山にアタックする時、信号に引っかかってしまったら、こんなことを思い出してみると良いだろう。
「人が壊し、人が治した山」
人間の都合に合わせて、変化を余儀なくされた六甲山。赤信号は、好き勝手に人間が手を入れてきた、この山の象徴であり、この山からのささやかなメッセージなのかもしれない。

参考文献

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