四国カルスト

日本百名登への道

プロフィール


木々の間から覗く空が少しずつ広がり、前方が「開けるぞ」という雰囲気が急激に高まってくる。

「来るぞ、来るぞ」

そんな期待が膨らみ切った瞬間、予想をはるかに超える光景が一気に視界へと飛び込んでくる。そして自分自身も、その壮大な景色の中へ吸い込まれていく。

なんという開放感、なんという疾走感。

四国カルストは、間違いなく日本を代表する「絶景の中を走る」サイクリングルートのひとつである。


「四国を代表するヒルクライムコースは?」

その問いに、四国カルストを挙げる人が多いのではないだろうか。

青空には雲が、まるで羊が戯れるようにふわりと浮かぶ。標高1,000〜1,500mの尾根伝いに広がる高原の牧草地には、白い石灰岩が点在している。それもまた、どこかのんびりと横たわる羊の群れのようである。

その中に、一本の舗装路が美しく、緩やかな曲線を描いて伸びていく。この「四国カルスト公園縦断線」は、間違いなく「日本を代表する絶景ロード」である。

かつて海底に堆積した石灰質の地層が、長い年月をかけて隆起し、そして雨や地下水の侵食によって削られていく。そうしてこの独特のカルスト地形が形成された。

この日本離れした風景を一目見ようと、今では多くの観光客が訪れるが、四国カルストは山深い四国山地の中、1955年頃までは完全に秘境だったという。

転機となったのが、愛媛大学による地質調査。地芳峠を中心とする石灰岩の高原地帯が注目され始め、姫鶴平では1961年から牛の放牧がスタートした。その後、1969年には「姫鶴荘」がオープンし、観光地としての整備が進んでいく。

やがて林道の舗装も進み、1996年には、愛媛・高知県をまたぐ「四国カルスト公園縦断線(県道383号)」として県道に昇格した。高原が現在も放牧場としてしっかり機能していることが、景観の保存に大きな役割を果たしているという。

私たちがこうして自転車でこの地を楽しめるのは、「秘境」を開発・維持・発展させてきた人たちの努力の賜物である。

かつて四国の山々で進んだ牧場開発。閉鎖するところが多い中で、四国カルストでは、牛の放牧が継続されている。

四国カルストには、複数のヒルクライムルートが存在する。

なかでもハイライトといえるのが、姫鶴平〜五段高原〜天狗高原にかけて。約4.5 kmの尾根道である。特に姫鶴平から五段高原にかけては、視界を遮るもののない絶景が広がる。この区間を登りながら味わうには、愛媛・高知両県の県境にある地芳峠を越えるルートが必要になる。

地芳峠に至るルートは、大きく分けて二つ。愛媛県・久万高原町から北側を回るルートと、高知県・梼原町から登る南側ルートである。

今回は、近年、隈研吾建築群でも注目される梼原を起点に、南から登るルートを紹介したい。

梼原の町をスタートし、今では秘境の面影も褪せた国道440号線を北へ進む。やがて地芳峠の直下を貫通するトンネルの手前で左に折れ、旧道へ入る。すると雰囲気が一変する。道幅が狭まり、木々に囲まれた静かな登坂が始まる。

木漏れ日が美しく、比較的緩やかな勾配の旧道を進み、やがて地芳峠に到達する。久万高原町から登ってくる北ルートと合流して愛媛県道・高知県道383号四国カルスト公園縦断線に入る。

地芳峠以降は尾根道となり、勾配は厳しさを増す。姫鶴平に到達すると、一気に視界が開ける。青空の下に牧草地が広がる、天空の世界。

一度大きく下り、最後の登坂に突入する。牧草地の激坂を登り、五段高原を経て、最高標高地点へ。最後に少し下って、天狗高原のフィニッシュに辿り着く。

ヒルクライムのフィニッシュ地点「天狗高原」。立派な標識が立ち、記念撮影に外せないスポット。

私が初めて四国カルストの絶景を目にしたのは、2021年4月15日。天狗高原へ直登するルートを選んだために、四国カルストの絶景の中を走らずに、最高標高地点に到達した。

ダウンヒルに入り、五段高原に差しかかる。初めて姫鶴平を一望した時の感動は今も鮮明に覚えている。写真を撮るのに夢中で、どのくらいの時間をその場で過ごしたであろうか。

「この絶景は、登りながら味わうべきだ。」

そう強く感じた私は、2025年5月31日、再び四国カルストを訪れた。

今回は梼原から地芳峠を経由するルートを選んだ。木漏れ日の中、静かに標高を上げる。地芳峠を過ぎて、徐々に空が広くなる。この先に待つ景色を、私は知っている。そしてその記憶を上回るほどの絶景が、再び私を迎えてくれた。

姫鶴平からは一度ダウンヒルを挟む。そして五段高原へ向けて登り返す。ヒルクライムで下りを挟む。そのことで、クライミングの「流れ」が断ち切られるような感覚を覚える。それを嫌う私ではあるが、このルートにおいては、むしろ素晴らしい演出だと感じている。

直前まで続いていた勾配の厳しい登坂区間から解放されて、スピードを上げてダウンヒルに入る。目の前に開けた四国カルストの絶景の中へと、まさに「飛び込む」感覚。

風を切りながら、四国カルストを全身で感じ、最後に待ち受ける登坂の全容を視界にとらえる。クライマックスへの期待と、予想される苦しさが織り混ざった感情が湧いてくる。

フィナーレに向けて、バイクも、気持ちも「加速」していく。

広大な牧草地と、四国の高峰が織りなす、開放感抜群の四国カルストの景観。

梼原で感じる、集落の気配。

地芳峠に至る、樹林帯の静寂。

五段高原に広がる、天空の牧草地。

そして、天狗高原から望む、四国の峰々の大パノラマ。

地芳峠を経由したルートでは、この山が持つ、多くの表情を楽しめる。そして疾走感と共に、景色の中に自分が溶け混んでいく感覚。

これこそが、四国カルストである。

五段高原〜天狗高原にかけては、南斜面に四国の山並みが美しく連なる。

参考文献

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