プロフィール
- 大分県日田市 県道9号線・釈迦岳遊歩道
- 標高:1,231 m
- 登坂距離:18.0 km
- 標高差:1,100 m
- 平均勾配:6.1%
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びっしりと溝が刻まれたコンクリート路面。そこから伝わる強烈な振動と、気を抜けば足をついてしまうような急勾配。
「自転車が壊れるんじゃないか?」
「ここにはロードバイクで来るべきではないのではないか?」
何度自分自身に問いかけただろうか。
そして、その問いに答えを出せるのは、やはり自分自身しかいない。暴れる自転車を、気持ちで抑え込みながら頂上を目指す。
福岡県の最高峰を知っているだろうか?英彦山や脊振山といった名前を、頭に思い浮かべる人が多いかもしれないが、「釈迦岳」という山がそれである。
釈迦岳は福岡県八女市と大分県日田市の境界に位置する、標高約1,230 mの山である。なぜ「約」かというと、それには訳がある。
この釈迦岳という山には、約120 m離れて標高の異なる二つの峰が存在する。標高1,231 mの「普賢岳」と、それよりわずかに低い標高1,229 mの「本釈迦」という二つの頂があるのだ。
福岡県の最高峰は、低い方の本釈迦である。県内の最高峰でありながら、釈迦岳の最頂部ではない。
そして今回紹介するのは、高い方の峰である普賢岳に至るヒルクライムコースである。走る道も頂上も、全て大分県で完結する。福岡県最高峰へのヒルクライム、とすることはできない。
福岡県を思うと、なんとも歯切れの悪い話ではあるが、そんなの山からしたら、知ったことではない。それに、最高点まで登れるのは、むしろ気持ちが良い。

ということで、釈迦岳は福岡県最高峰でありながら、ヒルクライムに関しては、大分県の山である。そしてこのコースでは、レースまでもが行われている。釈迦岳に馴染みがない人でも、「椿ヶ鼻ヒルクライム」という名前は聞いたことがあるという、熱心なクライマーがいるかもしれない。
日田市街から国道212号線を南へわずか。赤石川が大山川に注ぐ「中川原」交差点から県道9号へ。釈迦岳のアタックは、市街地の、日常の風景の延長として静かに始まる。
しかし、鳥宿湖(大山ダム)に向かう最初の2 kmは、湖面まで一気に駆け上がる急勾配。脚が慣れる暇などなく、すぐに日常からは切り離される。湖畔区間に入ると勾配が落ち着き、一呼吸おけるが、それも束の間。湖に別れを告げた瞬間から、本格的な登坂が幕を開ける。
途中には分岐がいくつかあるが、道に迷う心配はない。ヒルクライムレースのフィニッシュ地点近くにある。スノーピークの「奥日田キャンプフィールド」へ導く黒地の案内板が、まるで誘導灯のように進む方向を示してくれる。

スタートから8 km手前から、レースのフィニッシュとなる14 km地点までの平均斜度は約8%。しかし、大きく緩む区間が三度あるため、実際の登坂部分は容赦なく10%を超えてくる。椿ヶ鼻のレース経験者が口を揃えて「あのレースはきつい」と言うのは、この区間があまりに厳しいからである。
そして、ここで終わりではない。むしろ、ここからが、レース参加者も知らない釈迦岳のクライマックスである。
レース区間が終わるT字路を左へ。そしてすぐ、右前方に伸びる細い道が現れる。初見なら誰もが思うだろう。「これは違う道だろう」 と。
しかし、それこそが釈迦岳の最高点「普賢岳」へと続く道である。

ここから先の路面は、亀甲模様の溝が切られたコンクリート。自動車にとっての滑り止め加工は、ロードバイクにとっては延々と続く試練である。ペダルを踏むたび、自転車が上下に暴れ、腕がしびれる。身体中の感覚がおかしくなってくる。
特に前半約1.5 km、最大斜度は20%近い。距離500 mほどの区間の平均勾配が16%を超えることもある。「登る」のではなく「這い上がる」感覚。
ようやく激坂を突破したと思った瞬間、試練が続く。下りだ。ただの下りではない。登りと同じ亀甲路面。加速する自転車と、倍増する振動。登りよりはるかにストレスが大きい。
最後に再び牙をむく超急勾配。20%に迫るような激坂をクリアすると、やっと山頂に辿り着くわけである。そこには、今まで登ってきた激しいヒルクライムの興奮とは対照的に、無機質の人工物、雨量観測レーダーがポツンと建っている。
私が初めてこのルートを訪れたのは2021年11月。この時、私は釈迦岳の山頂に自転車で立てることを知らずに、レースコースをアタックした。こんなに厳しいコースでレースをやっているのかと驚いた。
この初挑戦からしばらくして、九州のヒルクライムコースを細かく調べているときに見つけたのである。標高1,200 mを超える山の頂に、標高差1,000 m以上のヒルクライムを行った上で、山頂に立てることを。そして、そのルートは「レース」という華やかな舞台の影に、ひっそりと隠れていた。その存在を自らの脚で、目で確認したくてたまらなくなった。
再訪は2025年5月。記憶通りの急勾配を駆け上り、見覚えのあるレースコースの終了地点までたどり着いた。その先に続く、急激に道幅を狭めた「壁」を視界に捉えて、思わず笑いすら込み上げた。石畳を思わせる、深く溝が切られた激坂に突入した。
腕の感覚が麻痺する。しかしここまでアタックしてきた。ロードで来るところじゃなかったかもしれない。ひき返すこともしたくない。その気持ちを胸に先を目指す。
自転車が壊れるのではないか、という振動を受けていること自体に感覚が麻痺してきた頃、フィニッシュとなる雨量レーダーを視界にとらえる。途端に元気が出る。そこまでいけば登坂は終わる。
こうして最後の最後に現れる壁を制覇する。周囲に自分より高い場所は無くなった。私はこの辺り一帯で、最も高いところに立っていた。

山頂は360度の大パノラマ。登ってきた悪路のことなどすぐに忘れて、景色に見入ってしまう。脊振山や三郡山といった福岡の高峰はもちろん、阿蘇、九重、祖母・傾といった九州を代表する名峰の数々を一望できる。
異彩を放つ、球体を頭に抱えた白く大きな雨量レーダー。登坂の最終区間で目標物ともなるこの人工物が、周囲を囲む大自然と共に、不思議なアンバランスな空気を作り出す。
そして最後に思い出すのである。あぁ、そうかこれから、登ってきた超悪路を下らないといけないのか。
車輪がロックするギリギリまでブレーキを握りながら、前転しないように注意しながら、登っている時と変わらないようなスローペースで恐る恐るダウンヒルを進める。
雨の日には絶対にトライしてはならない。濡れた路面では下れない。そんなことを思う。

レースコースの先に人知れず存在する、超が付くほどの悪路面。それに加えて、危険を伴うような急勾配。普段はとても歓迎できるようなものではない。
しかし、それが標高差1,000 mを超えるヒルクライムの最後に現れるとしたら。さらに、その道が標高1,230 mにもなる山の頂上まで到達しているとしたら。
それはもう、これ以上ないアトラクションとなるのである。

参考文献

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