二度上峠(にどあげとうげ)

日本百名登への道

プロフィール


ロードバイクは舗装路の上を走ることしかできない。この制約がある以上、当然ではあるが、ほとんどの山では山頂に立つことはできない。登山道しか整備されていないからである。

それ故に、山頂に立てるヒルクライムの存在が際立つ。それと同時に、山頂へ立てない山を「眺める」ことにも価値を見出すようになる。私は、この楽しみ方がまた好きである。

「遥拝」を知っているだろうか。遠く離れた場所から神仏や、神聖な山、太陽などの自然に向けて拝む行為である。日本古来の自然信仰においては、神々が宿る雄大な自然へ直接立ち入ることは畏れ多いとされ、遠方からその方角を仰ぎ見て祈りを捧げる形が生まれた。

徒歩では味わえないような、風を切って進む颯爽さ。かといって、自動車やオートバイと違って、自らの脚で登坂に挑む厳しさ。舗装路の上を走るとはいえ、簡単には登り切れない過酷さこそが、「眺める」ことの価値をより高めてくれる。自転車では、「眺める」ための特等席にも容易には到達できない。それは「遥拝」と「登拝」の中間にある営みのようにも思える。

そして、その経験を存分に味わうことができる峠がある。

二度上峠である。


高崎市倉渕町と北軽井沢を結ぶ、標高1,380 mの二度上峠。少し変わったこの名前は、草軽電鉄の二度上駅に由来するという説が広く知られている。

軽井沢と草津温泉を結んでいた草軽電鉄は、この付近で二度にわたる方向転換を行いながら急勾配を克服していたという。現在も北軽井沢側の山中には旧二度上駅の駅舎がひっそりと残されており、ここは今はなき鉄道の記憶を現代へ伝える峠でもある。

この峠を語る上で、浅間山の存在は欠かせない。浅間山があるからこそ、二度上峠は唯一無二の峠となる。

群馬県と長野県の県境にそびえる活火山・浅間山は、日本を代表する標高2,568 mの独立峰である。現在も噴火活動を続ける日本有数の活火山であり、その裾野には天明3年(1783年)の大噴火によって形成された鬼押出し溶岩流など、荒々しい火山地形が今も色濃く残る。

円錐形の整った山容は、遠く関東平野からでも目を引く。

『日本百名山』の著者、深田久弥は、

「浅間ほどどこからでも見える山はない」

と記した。

確かにその通りだと思う。長野県側から、群馬県側から、あるいは関東平野から見ても、あの独特の姿を見間違えることはない。

しかし、どこから見ても美しい山だからこそ、その中に「特等席」があってもいい。その答えの一つが、二度上峠なのである。

序盤は集落の中の緩斜面を進む。

高崎側の登坂は、国道406号線「権田」の交差点を県道54号へ折れたところから始まる。前半は勾配も緩く、烏川に沿って集落の中をハイスピードで進む。

やがて徐々に山へと分け入り、「はまゆう山荘」の前にあるゲートを越えると樹林帯へ入っていく。道の雰囲気とともに勾配も厳しくなり、いよいよ本格的なヒルクライムが始まったことを、視覚と脚の両方で実感する。

気づけば深い森の中。美しい九十九折が繰り返される。

このゲートからは、カーブ番号と峠までの残り距離が記された看板が現れる。その番号は「69」。登るにつれて、この数字が一つずつカウントダウンされていく。

美しい木漏れ日の中、九十九折の峠道を幾度となく繰り返す。時折、木々の間から視界が開ける。見上げると、端正な三角形の山が姿を現す。

「浅間山が近づいてきている」

そう勘違いしてもおかしくないその山の名は、浅間隠山。この山が、その向こうにある浅間山を覆い隠している。そのため、二度上峠の登坂中に浅間山を見ることはできない。

この峠の主役とも言える浅間山の出番を、クライマックスまで隠してくれる浅間隠山は、このヒルクライムの名脇役である。その分かりやすい名前もまた実に良い。

このヒルクライムの名脇役「浅間隠山」。その名の通りの役割を完璧に演じている。

9、8、7。

カーブ番号が一つずつ数字を減らすたび、空が少しずつ広くなっていく。そして1番カーブを越える。その瞬間、それまで一切姿を見せなかった主役が登場する。

浅間山である。

カーブ番号1番。二度上峠0.0 km。長いヒルクライムが終わりを告げる。

私が初めてこの峠を訪れたのは2021年。今回紹介したルートとは反対の北軽井沢側からだった。決して知名度が高いとは言えないこの峠の存在は知らず、北軽井沢から高崎方面へ抜けるのにちょうど良い峠があるな、その程度の認識だった。

そこで浅間山を一望する景色に出会い、日本には、まだこんな素晴らしい峠があるのだと強く印象に残った。そして、高崎側へのダウンヒルが驚くほど長かったことも、今なお鮮明に覚えている。

よほど気になっていたのだろう。翌年には高崎側からの登坂に挑んだ。記憶通りの長いヒルクライムだった。そして初めて気づいたのが、峠に立つまで、この登坂の主役だと思っていた浅間山が一切姿を見せないことだった。

その演出に気づいた瞬間、この峠の価値は私の中でさらに高まった。主役は、最後に派手に登場するのである。


2026年。私は再び二度上峠を訪れた。目の前には、浅間山が抜群の存在感でゆったりとその大きな裾野を広げている。

ふと右へ視線を走らせると、雪を頂いた北アルプスの高峰が連なっているのが見える。

しかし、すぐに視線は浅間山へと引き戻される。その質量と端正な美しさ、そして、いつ噴火してもおかしくない内なる荒々しさを兼ね備えた姿に圧倒される。

「浅間ほどどこからでも見える山はない」

どこから見ても見間違えることのない独立した山容。どこから見ても美しい山だからこそ、その中にも最良の眺めがあっていい。

ベストオブベスト。

それが、二度上峠であると私は思うのである。

晴れていれば北アルプスの峰々が姿を見せる。これもまたこの峠の素晴らしいところである。

参考文献

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